痛みのお話

ぎっくり腰(急性腰痛)

海外では、ぎっくり腰(急性腰痛)のことを「魔女の一撃」と呼んでいます。経験した方は納得のネーミングではないでしょうか。まさしく「一撃」で「起きる・立つ・歩く」という動作が困難になります。私もこの魔女に幾度も襲われ、激痛に耐えながら動いていた経験があります。ぎっくり腰が出現するシチュエーションとして、中腰の姿勢をとった時や、寝て起きたら動けなくなったということが多いです。

ぎっくり腰の原因として、筋骨格系の「筋肉、関節、椎間板」が挙げられます。

  1. 筋肉性:腰回りの筋肉が凝り固まる。
  2. 関節性:加齢、椎間板の変性や腰回りの筋肉が凝り固まることなどから、本来動かなければならない脊椎にある小さな関節(椎間関節)が動きにくくなることで痛みが生じる。
  3. 椎間板性:本来痛みを感じない椎間板に長年に渡り負荷がかかると椎間板に神経発芽が起こり、椎間板が痛みを感じるようになる。
    比較的ぎっくり腰を発症する方(自分も含めて)は慢性的に腰痛を抱えていることが多く、慢性的になる原因として「筋肉性」が多くを占めます。今回は筋肉性をメインに書きます。

慢性的な腰痛は腰回りの筋肉が凝り固まった状態(伸び縮みが出来なくなった劣化したゴムを想像してください)です。前屈みになると、緊張した腰の筋肉が伸ばされ、気持ちが良いときもありますが、油断したときにその筋肉が何かしらの影響で痛みを持つことで、魔女の一撃が加わります。一旦、筋肉が痛みを持つと上下に連なっているアナトミートレインといわれる筋膜を伝って他の部位の筋肉にも影響を及ぼします。患者さんには広範囲に筋肉が痙攣している状態とお伝えしています。  

【痛み⇒血流の低下⇒痛みの発痛物質増加、酸素欠乏⇒筋肉がより緊張⇒痛み増強】

このように、痛みの悪循環に陥っていますので、当院では、悪循環を止めるために神経ブロックを施行しています。局所麻酔薬を使用した神経ブロックにより、「痛みの抑制」と「筋肉に向かう血流の増加」が期待できます。このような筋肉性の痛みは、アナトミートレインと呼ばれる筋膜の経路に沿って広範囲に広がるため、複数回(平均して3回程度)の神経ブロックが必要になります。また、筋肉の痙攣を和らげる目的で、筋弛緩作用のある薬を処方することがあります。神経ブロック・内服により痛みが軽減し、動けるようになれば、運動療法がメインとなります。運動療法を施行する理由として、腰回りの筋肉の痙攣が続いたことで筋肉痛様の状態になっているため、これを放置すると治癒するまでに時間を要するからです。
当院では、「慢性化を防ぐ」「魔女を抑えるため」に理学療法士によるセルフストレッチ・運動指導を行っています。

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